愛が冷めないマグカップ
唇の記憶
◇
「あゆみちゃん?さっきから元気ないけど、どうしたの?お腹でもすいた?」
「あ…いえ、そうですか?!そっ…そんなことないですよ!」
宮間さんは心配そうにあゆみの顔を覗き込んでいる。
あゆみはマツさんとの散歩から帰ってきた宮間さんと一緒に座椅子に座ってテレビを見ている。
見ているとはいっても、さっき小林部長から言われた台詞が頭の中で何度もリピートされていて、テレビの内容はまったく頭に入って来なかった。
「確かにお腹空いたよね。晩ご飯まであと三十分ないし、そろそろ宴会場に移動する?」
宮間さんは、あゆみの元気がないのは空腹のせいだと決めつけている。きっと宮間さんもお腹が空いているのだろう。
(…小林部長、わたしが笹原主任のこと、好きだと思ってるのかな…)
(だいたい、所有物なんて、言い方おかしいし…。あれじゃあまるで、笹原主任が言ったとおり本当に小林部長がわたしを独占したいみたいじゃない…)
小林部長から湯飲みをプレゼントしてもらったのはとても嬉しかったけれど、こっちが勘違いしてしまいそうな言い方をするのはいい加減やめてほしいとあゆみは思った。
(小林部長は、石橋さんといるのがお似合いなんだから…。プレゼントしてくれた湯飲みだって、石橋さんと一緒に選んだくせに…)