恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
出会い:on森田喜一
 森田喜一の一日は、『今日も、うまく霊から逃れられますように』と祈る事から始まる。彼にとっては重要な儀式だった。
 物心ついた頃から森田には、『この世にいない存在』の霊が見えた。顔の輪郭も、着ている服も、視線も、しゃべっている内容も全部わかった。五人ついている守護霊も、どういう職業でどこに住んでいたのか全てわかっている。
 言葉がしゃべれるようになると、父や母、祖父母をいつも怖がらせた。
 あれは三歳の時だ。家族全員が集まって夕飯の食卓を囲んでいると、戦時中に亡くなったと思われる血だらけの兵士がやって来て、祖父の隣に立った。彼は森田に向かって『私は、君のおじいさんの友達だ。昔、戦争で死んでしまったがね。今日は、戦時中に助けてもらったお礼に、助言しにやってきた。おじいさんは、近々右足に大ケガをするかもしれない。注意して生活するように言って欲しい』と言った。子供の僕は何も疑わず、言われたまま祖父へ伝えた。すると皆は『狐か狸に取り憑かれているかもしれない!』と気味悪がった。誰も僕の言葉を信じようとしなかった。
 後日、祖父か霊の助言通り右足にケガをすれば、祖父は両親に『知り合いの霊能者の所へ行って、お祓いして来い!』と怒鳴っていた。両親には気の毒な事をした。
 中学の時など、この力が原因で大問題になった。
 担任の女性教師が国語の授業中、教壇に立っていたところ、彼女の側に白髪を後ろで綺麗に結い着物を着た、品の良い老女が現れた。森田を見れば心配そうな顔で、『この子のお付き合いしている男性には、他にもお付き合いしている女性がいるの。男性は浮気しているのよ。早く教えてあげないと、辛い思いをするわ。この子に教えて下さらない?』と告げた。担任の教師は三十一歳で独身。彼氏がいてもおかしくない年齢だった。
 老女の思いに突き動かされるよう、森田は放課後、誰もいない教室に担任の教師を呼び出した。そして出来るだけ遠回しに老女の言葉を告げた。善意で言ったつもりだった。
 しかし、彼女は激怒した。『侮辱だ!』と叫んだ。『そんなに私が憎いの!』と叫びもした。森田の言葉は、全く信じていなかった。
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