恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
「でも、浄霊のお金安くないよ。足しになるなら、遠慮しないで使って」
森田は財布を引っ込めようとしない。
「いくら、入っているの?」
「えっと…三千円くらい」
「浄霊料って、いくらくらい?」
「一万円」
「ぜんぜん足りないじゃん!…もう、いいよ。一万円くらい自分で払えるから、財布しまいなよ」
私は口元をおさえると体を丸め、ハデに笑うふりをした。
 そうでもしないと、涙がこぼれそうだった。クタクタに疲れた心に、森田の優しさが身にしみた。
(たぶん、なけなしのお小遣いなんだろうな。それを差し出してくれるなんて…ありがとう。気持ちだけで、十分だよ)
森田に気づかれないよう、私は手の甲で涙をぬぐった。彼にこれ以上、心配をかけたくなかった。
 森田は『本当にお金必要ない?』と気にかけつつ、財布を通学鞄へしまった。『大丈夫』と五回言ったら、ようやくパソコンへ向かいメールを打ち始めた。
 無事、浄霊依頼のメールを送信したら、すごくホッとした。返事は森田のパソコンへ送ってもらい、バイト先に連絡をくれるよう頼んだ。私は自宅へ帰れないし、携帯電話は電池が切れていて、充電しようかどうか悩んでいる。だから連絡が取れないのだ。
(よかった、これで助かる!)
だが、本当の恐怖が幕を開けるのは、これからだった。私達はつかの間の余暇を楽しんだにすぎなかった。
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