恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
本当にそう思った。ケンカすればするほど心がすさむ。だったら、しないように距離を置けばいい。狭いワンルームでも、友達を呼んで毎晩のようにワイワイ騒いでいる場面を想像したら、すごく楽しそう。やらない手はない。
(それで彼氏ができたら、同棲でもしようかな。だったら、料理も勉強しないと。なーんにもできないもん!)
大変だと思いつつも、嬉しくて顔がニヤけた。
 妄想を巡らせていると、突然自動ドアが開いた。
「いらっしゃいませー!」
いつものように食器を洗う手を止めず、挨拶しながらカウンターを見た。
 洗い場は、カウンターのすぐ側にある。カウンターはショーケースになっていて、中には沢山のドーナツが陳列してある。お客はカウンターの向こうで注文し、代金を払って、袋や箱につめたドーナツを受け取る。カウンターに誰もいないのなら、雑用は二の次にして接客をしに行こうと思ったのだ。
 しかし、いたのは森田だった。私はすごく驚いた。
 もう一年以上、この店でバイトしているが、彼を見るのは初めてのような気がした。できるだけ存在を認められないよう生きてきたというのは、本当だったのだ。
 そんな私の思いとは裏腹に、森田はとても真剣な目で店内を見回していた。ただならぬ様子に、私はただならぬ気配を感じた。
 森田は私を発見したとたん、すごい勢いで駆け寄ってきた。彼はまだ制服を着たままだった。着替えをする余裕もないほどの、緊急事態が起きたのかもしれない。
「ど、どうしたの?森田君」
「よかった、まだ何ともなかった」
「かえって昼より元気なくらいよ。…で、用件って何?今、仕事中だから、長話できないんだよね」
とたん、森田は私の左腕をつかんだ。
「今すぐ浄霊に行こう!」
「あの、私の話聞いていなかった?仕事中なの。浄霊なんか行けるわけないでしょ」
「家に帰ってメールをチェックしたら、浄霊の依頼をした陰陽師から返事が来ていたんだ。その陰陽師は、強い霊感があるし、とある有名な陰陽師の元で修行を積んだから、メールを送っただけで今川さんの状態を見抜いたみたいなんだけど…」

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