恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
決戦
 体力を激しく消耗した私は、家に帰る気力もなくなり、結局バイトが始まる時間まで街中で過ごす事にした。とは言っても、有料でシャワーを浴びれる店へ行ってシャワーを浴びたり、ワイシャツをクリーニングに出したりと、一人暮らしのOLみたいな行動だった。汚れた私服や下着、靴下はコインランドリーで洗濯した。今まで親がかりで靴下一足洗った事がなかったが、やろうと思えばやれるものだ。
 午後五時三十分。スッキリしていい気分になると体力もかなり回復し、早々に着替えバイトに出る事にした。いや、色々な事がありすぎて考えたくなかったので、仕事をして気を紛らわせようと思った。
「おはようございます!」
「あっれー春乃ちゃん。今日早くない?出勤時間までまだ三十分もあるよ。休んでいれば」
「なんか今日は無性に働きたいんです。だから、気にしないで下さい」
「そう、じゃ、早速コーヒーを落としてもらおうかな」
市内の短大に通う十九歳のお姉さんは、軽く日に焼けた顔に満面の笑みを浮かべた。テニス部に所属する彼女は、とても面倒見が良くて気さく。憧れの女性だ。私は彼女のようになりたいと思っている。
 大好きな先輩と一緒に仕事ができる喜びにウキウキしながら、コーヒーを落とす準備をした。サーバーは、先ほどまで学校帰りの学生や、お茶をしに来た主婦達でにぎわっていたのだろう、二つとも空っぽだった。キッチンを見れば、洗っていない食器が山のように積まれていた。
(こりゃ、がんばらないと)
他にいるパートのおばちゃんと、四年制大学に通うアルバイトのお姉さんに出勤の挨拶をすると、コーヒーを落としながら、キッチンの食器を洗った。白くてシンプルなデザインのカップやソーサー、ドーナツを乗せていたお皿がキレイになっていくのを眺めていると、幸せな気持ちになった。『働くのって、楽しい』と思う。
(きっとこの仕事、合っているんだろうな。接客するの、すごく楽しいもん。…高校を卒業したら、ここに就職しようかな。そして、一人暮らしするかな。嫌な母さんの顔見なくてすむし)
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