恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
「かしこまりました。ですからどうか、頭を上げて下さい。そして、私の指示に必ずしたがって下さい。さすれば、あの悪霊は間違いなく成仏します」
『サセルカァ…ソンナコト、させるカァ!』
静かな店内にミチカの怒号が響いた。野太い声に、私だけじゃなく、父や母、森田も体を震わせた。
「少女よ、しっかりしなさい」
陰陽師の呼びかけに、私はガクガクと震えながらかを上げた。陰陽師は立ち上がり、私達に背を向け、ミチカと対峙していた。
「そなたがあの悪霊に『成仏して欲しい、これからの人生を前向きに生きたい』と願っているのなら、浄霊は必ず成功する。心で負けてはいけない」
「は、はい…」
「私を信じなさい。そして、すべてを任せなさい。私はこのような時のために、血のにじむような修行を沢山積んできた。あれぐらいの悪霊に、けっして負けない。これはハッタリではない。真実だ」
「わかりました、お願い…します」
私は胸の前で手を合わせた。今はただ祈る事しかできなかった。
 陰陽師は力強くうなずいた。すると、森田の左手が『大丈夫だよ』と言うように、私の体をしっかりと抱きしめてくれた。
「大丈夫、この陰陽師を信じよう。僕の勘ってけっこう当たるんだけど、彼の言っている事は間違いないと思うよ」
「うん」
私は大きくうなずいた。森田も返すよう、うなずいた。
 父や母は私の周りに正座し、手を合わせ目を閉じた。私と森田は手を合わせると、陰陽師の動きを見守る事にした。
 みんなの思いは一つになった。家族で思いを一つにしたのは、初めてだった。
「では、行くぞ!」
陰陽師は一歩、また一歩とミチカへ近付いていく。ミチカは胸の部分を押さえたまま、苦しげに顔を歪ませにらんでいた。
『オ前ゴトキニ負ケヌ!』
「私は勝とうなどと思っていない。人間の世界にかってに棲み付き、悪さをしている悪霊の怨念を燃焼させ、行くべき場所へ導くだけだ」
『ココハ私ノ世界ダ!誰ノ許可ナクトモ棲メル!』
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