ここで歌うは君がため〜交わされた約束〜

「んぐぐぐっ」


テトはくぐもった声しか出せない。

テトのその姿を見ながら、ツバルは次の判断ができないでいた。

テト様の鏡から出ている手は、クレア王妃様の手だ・・・。

側に仕えているツバルだからこそわかること。

クレア王妃様に危害を加えることはできない。しかし、このままではテト様の願いが叶えられない・・・。


ーーーバンッ


そんな思考を中断させる大きな音が部屋に響きわたった。


「返事がないから勝手に入るぞ」

「オズヴェルド様!」


ハジを連れたオズヴェルドが部屋に入ってきたのだ。


「勝手に入られては困ります!」


ツバルの抑止は意味がなかった。

目の前の光景を見て、動揺している。


「これは、いったい・・・」


テトは相変わらず口を塞がれたままで、横目でオズヴェルドを捉えると暴れ出した。

ここまできたのに、邪魔されては困る!
その思い出いっぱいだったのだ。


「オズ、あれはおそらくクレア王妃様だぞ」


小声で囁かれて、オズヴェルドは驚いた。


「落ち着いてよく見ろ。テト様の等身大の鏡が何故ここにあると思う? ユノの首を見ろ。時計がかけてある・・・。約束を交わそうとしていたんだ」

「っ!?」

「なんらかでその情報を得たクレア王妃様が、テト様の邪魔をしているって構図だよ、これは」


ハジの的確な推理を聞いて、オズヴェルドは落ち着きを取り戻した。


「ユノはまだ意識が戻っていない。それなのに約束を交わそうとするなんて・・・」

「もうわかったでしょ? ユノはオズの元に帰るべきだ」


そう言ってハジはツバルの道を塞ぐ。ハジの意思を読み取ったオズは、ゆのを抱えて部屋から飛び出した。

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