管狐物語

桜と烈が広間に戻ると、次郎は、丁寧にたたまれたエプロンの横に正座で座り、1人でお茶をすすっていた。

部屋は見事に綺麗に片付けられていた。

次郎は2人を見ると、にこっと微笑んだ。

「ご苦労様です。
こちらも片付きましたよ。
あ、お茶飲みます?」

のほほんとくつろぎながら、2人にお茶を勧める。
穏やか過ぎる表情の次郎に、なぜか2人はぞくっとする…。
次郎の後ろにホワホワ花さえ浮かんで見える。


「…いや…。
それより、次郎さん。
あの散らかり放題の部屋、よく短時間で片付けられたな。
……まさか、また妖力つかって…」

「いやですねぇ。
さっきも姫に言いましたが、姫の了解を得ないでは、もう使いませんよ。
片付けは、焰がぜ〜んぶやってくれました」

「はぁ?
焰が⁈」

「はい。
勢い良く、ぱぱっと。
この歳になると、身体にもがたがきますから、助かりました」

ふふっと次郎は嬉しそうに、またゆっくりお茶をすする。



ボーン
ボーン



柱時計が鳴り、次郎は時計を見やる。
時間は11時を回っていた。

「ああ、もうこんな時間ですか…。
さて、姫、今日は色々あって疲れていると思いますから、もう休んでくださいね」

「あ、はい。
今日は、美味しいご飯、ありがとうございました」

ぺこっと頭を下げた桜の肩を、次郎は両手で軽く掴み、桜の頭をあげさせて言う。

「姫、やめてください。
私達は、姫をお守りする従者ですから、そんな丁寧にする必要は、ありません」

「そうそう。
そのかしこまった言い方もやめろよ。
普通でいい」

烈もにっこり笑う。

「…でも、まだ今日初めて会ったから…」

桜は戸惑いながら、次郎の顔を見ると、次郎は両手で桜の頬を包み、優しく笑った。

「貴女は、優しい方ですね…。
では、徐々にでいいですよ。
徐々に、打ち解けてもらえたら、嬉しいです」

桜は、軽く頬を染めて、こくんと頷いた。

「さあ、部屋で休んでください」

「おやすみ、桜」

次郎と烈に、見送られながら、桜は広間を出て行った。



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