愛されることの奇跡、愛することの軌跡
『成績は常にトップクラス。2年生時の評定平均4.9。学年1位はもちろんのこと、大手予備校主催の一斉模試が全国3位。東都大学の合格判定トリプルA』

先生はパソコンを見ていたはずなのにスラスラ私のデータを何も見ず、私を見ながら話す。

『しかし先日の学年末テストは大森にトップの座を明け渡している』
「今は2者面談の時間でしょうか?」
『いや、違うよ。だから今度この続きは話そう』
「分かりました」

"失礼します"とドアのノブに手をかけたとき、

『最後に、君は今の姿より、あの時の"うさぎちゃん"の方が余程君らしい。第一印象は大事だとあの時話したが、俺の君に対する第一印象は、あの時の君だ。だから、返事のことは気にしないで、1年学級委員を務めてくれ』

私が先生の方に振り返ると、あの時の"健吾さん"と同じ微笑みを返してくれた。

私は、その表情にドキっとしてしまったんだ。

「あ、ありがとうございます」

訳のわからない感謝の言葉を発し、準備室を出た。

私は、先生をどう思っているのだろうか。

学級委員に指名された時は腹が立った。

でも今

"初めから金澤に決めていた"

と言われて、悪い気はしなかった。

心の奥から、今まで感じたことのない感情が少しずつ湧き出ているのを、認めざるを得なかった。

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