愛されることの奇跡、愛することの軌跡
『それと、ちょっとこれは賭けなんだけど、玲奈…一度うちの父と会ってもらえないだろうか』


健吾のお父さん?


「でも、会ってどうするの?」


『素直に、自分の気持ちを話せばいい』


「大丈夫かなぁ」


『玲奈さんならできます!私はお父さんを撃退する努力をします。精神的に追い詰めてやるんだから』


このみちゃんはそう言うと、目の前のチーズケーキを食べ始めた。


『お前、いつもならアイスクリーム食べるのに、何で今日はチーズケーキなの?』


『だって、アイスクリームだと夢中で話せば溶けちゃうじゃん。チーズケーキならその心配ないもん』


そんなふたりの会話の最中、健吾がテーブルの下で私の手を握っていた。


"親父の予定を聞いて、日程を決めるから"


と、健吾が小声で言ったことで、健吾のお父さんとの対面が冗談じゃないんだということを思い知った。


そして私はその返事の代わりに、健吾の手をギュッと握った。


後日、健吾のお父さんは自宅で私と会ってくれることになり、今週土曜日の午後4時からに決まったと、健吾から連絡があった。


お父さんとお母さんには、健吾が成瀬川の人間だとバレてしまうかも知れないと思い、健吾のお父さんに会うことは内緒にしておいた。
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