愛されることの奇跡、愛することの軌跡
健吾は重い口を開いた。


『俺は、この記事が出る前から疑問に思っていたんだ。何でうちの父親はこの製本技術を高く評価しているんだろ?って。確かにコストパフォーマンスはいいし、製本の時間の短縮も図れる。しかし、まだ不完全でリスクは高い。そこに俺とこのみちゃんとの結婚を絡めるなんて、龍成社にしてみれば、ほとんどメリットがない話なのにな』


得をするのは、成瀬川の御曹司と娘を結婚させれば自分の会社は安泰と考えるこのみちゃんのお父さんくらい。


あとの人たちは、何の得にもならないのだ。


『このみの親父さんが、成瀬川家の弱みを握っていると考えるのが自然、かな』


陽平は顎に手を当てて考える。


『いずれにせよ、このみちゃんが玲奈の家に行くのは逆効果だ。むしろ、このみちゃんには家にいてもらって父親に冷たく接した方が効果的だろ』


「"お父さんとはもう、口を聞かない!"みたいな?」


娘が可愛くない父親はいない。


その心情を利用した方がいいと言うのが健吾の考え方だ。
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