愛されることの奇跡、愛することの軌跡
健吾が"さて"と言って左腕にしていた腕時計を外して教卓の端に置いた時、教室の後ろのドアが静かに開いた。


他に遮る音もなかったので、静かな開け方でも目立つ。


みんなでそのドアを開けた主を見ると…テッちゃんだった。


『テツ…いや、徳重先生、見学ですか?』


『お前の最後の授業を見届けさせてもらうよ、邪魔はしないから』


と、テッちゃんは元々後ろの壁に立て掛けてあったパイプ椅子を広げて、美郷の斜め後ろの位置に座った。


健吾はテッちゃんを見て"フッ"と鼻で笑った。


『さて、これから最後のLHRを行う。この教室を使用できる時間はお昼12時まで。1回休憩を入れて、2つのテーマをやるぞ』


健吾はLHRの時、必ずテーマを決めて、そのキーワードを黒板に示している。


今回も多分、その流れ。


『テーマをここに書く前に、木内!起立!』


美郷が呼ばれた。


『は、はい』


まさか自分が呼ばれるとは思わず、隣には"カレ"もいるし、美郷にとってはドキドキする状況。
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