とろける恋のヴィブラート
「い、いや……いや!」


 頬に触れようとした柴野のその手を、奏は反射的に振り払った。


「っ!? ご、ごめんなさ――」


「どうして? どうして別れた途端そんな拒否するの?」


 そんなつもりじゃない――。


 そう伝えようにも、喉の内側がからからに乾いて言葉にできなかった。


「そんなに御堂がいい? 僕よりも? ねぇ、あいつにあって僕にない物ってなにか教えてくれないか?」


 逃げ腰になった奏の腕を捉えると、柴野はぐっと掴む手に力を込めた。


「し、ばのさん……やめて」


 ぎりぎりと柴野の爪が手首に食い込んでくるのがわかる。身じろぎしてもびくともしない。


「ふふ……また片想いになっちゃったよ、奏……この想いが届かなくても、君を好きでいるのは自由だよね?」



「お願い……離して」


 震える声で怯える奏を見て、柴野はうっすらと笑った。
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