とろける恋のヴィブラート
「あの男となにかあったんだな?」


「……どう、して?」


「目が腫れぼったいのはそのせいか?」


 チクチクと御堂が触れられたくない部分をつついてくる。それでも奏は無理矢理に笑顔を作った。


「ほんとになんでもないんです。御堂さん、続き弾きましょう」


「……気が削がれた」


「え……?」


 御堂は、慌てる奏を横目にヴァイオリンをケースにしまう。


「演奏者にとって指は命だ。そんな不安定な音じゃ、音合わせにならない」


 御堂の言っていることは最もすぎて、奏は言い訳もできなかった。


「すみません……出直します」


 御堂は、音楽に対してストイックだ。これ以上食い下がっても、御堂が機嫌を直すことはない。奏は居た堪れない気持ちで、足早に御堂の部屋を後にした。
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