あなたが好きで…
第一章:新井澪
1
無粋な電子音が、澪の耳をつんざく。
先ほどまであった感触や、温もりは消え、全てが虚しく蒸発していく。
目が覚めた。
まだ不自由な体をのそのそと伸ばし、音の元凶に手を伸ばす。
しばらくすると、硬い感触とともにその無粋な機械は鳴くのをやめた。
重たい瞼を何とか開かせようと努力する。頭にフィルターがかかってるようだ。
ボヤけた視界を徐々に慣らしていく。
ふと視線を動かす。
カーテンの隙間から差し込む光が薄暗い部屋の中を一筋照らしている。お気に入りのぬいぐるみや、茜と撮ったプリクラやらをスポットライトが照らしていた。

「~~~~……」

体を伸ばす。
と同時に大きなあくびが出た。

………。

次第に、頭の中もはっきりしてきた。そして先ほどまでの感情も、はっきりと蘇ってきた。
どうやら、あれはとても恥ずかしい夢だったようだ。あまりに乙女で、純情で、そして非現実的な夢だ。
は!と思い、自分の唇に触れる。
もちろん、感触など残ってはいない。
全ては泡沫の夢に消えた。
その時澪は、少しだけ、切なくなった。
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