お向かいさんに恋をして
「引っ越しの挨拶?
若いのに偉いんだね」

お兄さんの声が、警戒を解いたようにさっきよりも柔らかくなった。

「実は僕も越してきたばかりで、この辺のこと全然知らないんだ。
だから頼りはにならないと思うけど、こちらこそよろしくね」

にっこり笑いかけてくれたお兄さんに、私は再度ぼんやり。

「波江さん? 
引越しで疲れちゃってるのかな?」

大丈夫? と顔の前で手を上下に振られ、私は我に返った。

「あの、お兄さんはモデルさんですか?」

思ったことが、つい口をついて出てしまった。
いきなりそんなこと聞くなんて失礼だよね?

口を抑えてあわあわしている私にきょとんとしたあと、笑い出すお兄さん。

「まさか。ただのサラリーマンだよ。
お兄さんって年でもないし。おじさんだよ」

おじさんって、お腹が出てたり顔にシワがあったり、髪の毛が薄そうな印象があるけど……。
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