土曜の昼下がりに、あなたと
彼氏の高哉(たかや)とは付き合い始めてかれこれ二年ほどになる。
大手の化学メーカーに勤める彼と、臨床検査技師として健診専門のクリニックに勤める私。
ふたりは友達の紹介で知り合った。
共通項はどちらも理系ということくらいの私たち。
けれども、初めて会ったときからなんとなく波長が合うような、無理をしないで一緒にいられる気やすさがあった。
彼は基本的には土日が休み。
私はときどき土曜出勤があるけれど、それでもまったく休みが合わないわけでない。
金曜の夜には仕事帰りに私が彼の家に直行するのがいつものパターン。
彼の家はたまたま私の勤務先からわりと近く、合鍵で自由に出入りするのを許されている私は金曜以外にふらっと寄ることもあった。
高哉は温厚で冷静で、ちょっと理屈っぽくて。
何かで行き違いや衝突があっても、自分の感情を全面に押し出すようなことはない。
だからいつも、ケンカといっても私の独り相撲みたいになってしまう。
そんな彼にイラッとしたり、やきもきしたり。
それでも――やっぱり、彼のことが好きなのだから。
私が直情的なぶん、彼の冷静さでバランスがとれているのは確かだし。
高哉は理詰めでかかってくるわりに、肝心なところでは口べたで。
私に言い負かされて拗ねるところが可愛かったりもする。
彼のことが好き……好きだからこそ腹が立つ。
彼が優しいから、優しいからこそ――不安になる。
高哉はまるで判で押したように金曜の夜(しかも隔週!)に私を側に抱き寄せる。
それはほぼ絶対で“する”ことは当たり前の確定事項。
私の都合はあまり関係ないらしい。
もちろん、拒否の意思をはっきり示せば彼はそれ以上何もしてこないのかもしれない。
だけど――それが怖かった。
怖いから応じる。
私が拒否なんてしたら最後、彼はあっさり引き下がり、それっきりになってしまう気がして……。
ちなみに、金曜以外の日に私が誘っても応じてくれたことはない。
平日は仕事で疲れているのはわかっている。
わかっている……つもり。
高哉を紹介してくれた友達経由で彼の激務ぶりはなんとなく聞いているし。
浮気を疑ったりもしていない。
女の影など皆無だもの。
平日の激務で週末だって疲れがたまっているでしょうに、律儀に"そうして"くれる高哉。
なのに、私は――心が狭い?欲張りすぎ?そう考えたことがないわけじゃない。
結婚している女友達は「レスで悩んでいる人もたくさんいるんだから、あんたは幸せ」とたしなめる。
それは、そうかもしれない。
しれない、けど……。
なんだか気持ちが一方通行で、ちっとも通い合っていない気がして。
それがひどく気になって、切なくて。
どうにかしたいのに、どうしていいかわからない。
私は考えあぐね、半ば途方に暮れていた。