満たされる夜
「どうしてキスマークつけたんですか」


立ち上がろうとした課長の前に立ちはだかる。

理由は何だっていい。

もう一度。
もう一度だけあの夜のように、女としての私を求められたい。
この人の腕に抱かれたい。


「課長、教えてくれるまで行かせませんよ」


力で敵わないことは知っている。
課長は私よりもずっと背が高い。ヒールを履いていても、私の頭は課長の鎖骨にも届かない。


課長は近くに誰もいないことを確かめると、屈んで私の耳元で囁いた。


「俺が抱いた証拠だ」


ぞくっとするような低い声は、どうしようもなく甘くて色っぽい。
私の体の奥底が一瞬にして疼き始める。


「それならもう一度、抱いてください」

「男を煽るな」


課長は空き缶をゴミ箱に捨てると、私を振り返ることもなく歩き出す。


「本気ですよ!」

貪るように愛されたい。
愛情なんていらない。
その行為の中だけでいい。満たされたいのだ。
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