満たされる夜
私は再びお金を入れて、ミルクティーを買う。
課長はソファに座ってスマートフォンをチェックしていた。

そっと隣に腰を下ろす。


「私、別れましたよ」

「そうか」


課長は何でもないように聞き流す。
私の顔を見ることもなく。


「別れて良かったじゃないか。次はマトモな男と―――」

「課長、キスマークつけましたよね?」


課長は、えっ、というように目を見開いて私を見てくる。
バレない、バレてないと思っていたのだろうか。

「太ももの内側。つけられたことも気づかなかった。もう消えちゃいましたけど」


「覚えてない。それで別れたのか」


「いえ。奥さんが妊娠したそうで」


ミルクティーを一口流し込む。
疲れた体には甘いものがちょうどいい。
満たされない心にもしみ込んでいく。ような気がする。


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