満たされる夜
役職がつくと仕事量もどんどん増えていく。
ましてや部長が今週で定年退職。

他のことにかまける時間があるなら、今はとりあえず仕事だ。

今更恋をしようなんて気持ちにもならない。
独りで生きていたって困らない時代だし、もうあんな思いをするのはごめんだ。



「仕事ばっかりの人とは付き合えません。元夫がそういう人で離婚しましたから」


「そうですか。私もあなたみたいなキャンキャン言いそうな人とは付き合えません。今この時間だって無駄なんだ」


テーブルにコーヒー代を置いて立ち上がる。
ふと目をやると、女は唇を噛みしめていた。


「男の人に私の気持ちは分かりません」

「分かりませんよ。言いたいことは言わなければ理解することは出来ない。そこから始めたらどうですか」


言いたいことは言わなければ理解出来ない。

それが過去の俺の失敗だ―――。
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