満たされる夜
何事もない毎日が続く。
課長に書類を渡すときも、仕事を頼まれるときも、当たり前だけど何もない。

だけどあの目を間近で見ると、記憶が蘇る。

抱かれたときの熱を持った目、その翌朝の柔らかさのあるような表情。

もっともそれは、私の記憶の中で巻き起こることなのだけど。




昼休み、社員食堂で食べていると目の前に遠藤が座った。
カツ丼の乗ったトレーをドカッと置く。


あれ以来、顔を合わせるのは初めてだ。

アドレスも消してしまったし、連絡も来ない。すっかり忘れていた。


「よっ」

「怪しまれたくないんですけど」


付き合っていたときも不倫していたときも、社内では接触しないようにしていた。
いつどこで変な噂になるか分からないから。


「まあまあ。伊丹さん情報持ってきたんだけど?」


思いがけない名前にむせてしまう。
遠藤はやっぱりかとでも言いたそうに、ニヤリとしている。


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