バターリッチ・フィアンセ
○人違い

姉の作ったサンドイッチは、お世辞抜きに美味しいものだった。

手作りの肉味噌とレタス、アボカドとクリームチーズとベーコン、それにたっぷりのホイップとフルーツを挟んだフルーツサンド。

パンが昴さんの焼いたものでないのが残念だったけれど、それでも絶品と呼べるほどの出来栄え。


それを姉は『城戸さんのご指導の賜物』と素直に言っていて、それがいつもの彼女の高慢な態度とあまりにかけ離れていたから私は驚いてしまった。


「お姉様がそんな風に人を褒めるのって珍しいわね」

「そうかしら? でも、彼のことは初めて会った日から、珠絵と高く評価してたのよ? だって、あの日買ったパンはどれも美味しいものばかりだったんだもの。
写真で見るより近くで見た方が顔立ちも素敵だし、織絵はもしかして一番いい人を捕まえたのかもね、なんて話していたんだから」


からかうように私を肘でつついた琴絵お姉様。

まさか、姉二人が昴さんをそんな風に評価していたなんて……嬉しいけれど、少しくすぐったい。

それに、まだ、“捕まえた”と言っていいものなのかどうかも自信がないし……


微妙な照れ笑いを浮かべる私に対し、姉はさらに続けた。


「あなたたち、さっさと正式に婚約して式の準備を進めちゃえばいいのに。早く見たいわ、織絵のドレス姿」

「せ、正式に……? それはさすがにまだ……」


私たちが共同生活をするようになって、まだほんの二週間ほど。

気持ちはすっかり昴さんに惹きつけられてしまったけど、まだまだ“結婚”の二文字には遠い。

私はそう思っていたのだけれど……



「俺は別にいいけどね。今すぐ結婚しても」



昴さんはあっさりとそう言って、残り一口だったサンドイッチを口に放り込むと手についたパンかすを払って立ち上がり、キッチンに行ってしまう。


それ、本気ですか……?

本気なら嬉しいけれど、だったら私の目を見て言ってくれればいいのに……


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