バターリッチ・フィアンセ

城戸さんの、薄茶色の瞳が迫ってくる。

今の台詞って、お姉様たち、まさかお金を払わずに――!?


「カ、ラダ……って。それは労働で返せという意味……ですよね?」

「……それもいいけど。でも、今日の格好でどうやって店手伝うわけ?」


息のかかるくらいの至近距離で言われて、心臓が今まで経験したことのないくらいに大きく跳ねた。

真澄くん以外の男性を、こんなに間近で見るのって、初めてだし……

城戸さんからは、言葉ではいい難い、不思議な甘い香りがするんだもの。

彼の手がいつも捏ねているのであろう小麦やバターやチョコレートの香りはもちろん、それだけじゃない、彼独特の甘い香りが……


「わ、私の服や私物は、夕方運んでもらう手筈になってて……っ」


上擦った声で何とか答えると、急にふっと笑った彼の鼻息が顔にかかった。



「それなら、ロードーじゃない方法で払うしかないね?」



にこり、細められた目。

その笑顔はあまりに胡散臭くて、私の中の危険信号がピコピコ赤く点滅する。

や、やっぱり城戸さんて信用してはいけない人なのでは――!?


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