バターリッチ・フィアンセ


「織絵……」


だらりと両脇に下げたままだった腕をおそるおそる引き上げ、少し躊躇してから俺も彼女を抱き締めてみる。

そして湧きあがってきたのは……

今言われた台詞と、全く同じ気持ち。

言葉はこぼれるように、口をついて出た。



「俺も……そう。織絵のこと、全然俺ん中から消えてくれなくて。毎日毎日、織絵のことばっか考えてたんだ。馬鹿みたいに、ずっと」



離れれば大丈夫だと思ったのに。

いつかは織絵への気持ちも薄れると思ったのに。

心はいっつも織絵を求めてて、胸の痛みは日に日に増すばかりで。



「……でも、もう二度と会わない気だった。織絵には俺なんかより、もっと相応しい人がいるんじゃないかって思って」



言葉とは裏腹に、背中に回した腕に俺はぐっと力を込めた。

……ほら、こうなるから、会っちゃダメだと思ったんだ。

二度と離したくない……離してやらない……そんな勝手な思いで、胸が潰れそうになるから。


「すばるさんがいい……」


俺の胸を涙で濡らしながら、織絵が呟く。


「すばるさんしか、いらない……っ」


言葉にしたことで、余計に感情が昂ってしまったらしい。

ますます泣き声を大きくする織絵が、どんどん駄々っ子のような口調になっていく。


「もう、黙って消えたりしないって……っ。やくそく、してくれないと、私……。また、昴さんいなくなったら、どうしていいのか、わからない。きっと、寂しくて、どうにか、なっちゃう……っ」


そう、泣きながら必死に訴える織絵が、愛しくてたまらなくて。


俺も……

たぶん、もう、織絵と離れるの、無理だ。


そう思ったら、自然に視線の絡まった俺たちは、そのまま引き寄せられるように、互いの唇を重ねていた。



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