バターリッチ・フィアンセ

昴さんと別れたあと、私はたまたま手にとった服の値札を見て驚愕した。


「……三桁。って、何かの間違いじゃないのかしら……」


思わず側にいた店員に声を掛け、印刷ミスじゃないかと聞いてみたのだけれど、私の持っていた薄手のシャツは間違いなく999円ということだった。


こんな世界もあるのね……


まるで異国の地を旅するように新鮮な気持ちで買い物を楽しみ、会計をするときにもまた驚いた。

小物も合わせて16点もの品を買ったはずなのに、支払いが一万円以下だったのだ。

昴さんのいる二階へ上がる途中、思わず笑みがこぼれて、生まれて初めてこんな感情を抱いた。

――安いって、嬉しいかも。



「……あれ? もう自分で払っちゃったのか。俺のと合わせて買おうとしたのに」

「いえ、だってすごく安くて! あと100着くらい買いたくなっちゃいました!」


興奮気味に話す私をふっと鼻で笑ってから、昴さんは近くにあった鏡の方へ移動し、持っていたTシャツを当ててみていた。


「どう? これ」


海のように深いブルーに、シンプルな英字プリントのTシャツ。

彼の明るい髪の色ともよく合っているし、素敵だと思う。


「お似合いです、とても」

「じゃーそっちの棚からXSも持ってきて?」


……XS? 畳まれたシャツの山からそれを探して広げてみたけれど、昴さんにはちょっと小さいような……


「それ、お揃いの部屋着にしよ」


< 25 / 222 >

この作品をシェア

pagetop