バターリッチ・フィアンセ


――ペンションに行くことが決まってからの織絵は、前よりさらに打たれ強くなってしまった。

休みを挟んだからか、早起きの癖をものにし、俺より先に厨房に入って毎朝(というか夜明け前)、せっせと掃除をしている。


なかなか彼女を責める要素が見つからなくて苛立つ俺は、ある朝一緒に厨房を掃除しながら言った。


「……ちょっと見して、それ」

「はい?」


どうせ三条家では掃除なんてやったことないだろうと、まるで嫁をいびる姑のように“絞り方が甘い”と文句を言うつもりで受け取ったのは雑巾。

だけどそれは、予想に反しきちんと固く絞られていた。


「……つまんねー」

「……?」


首を傾げる織絵の手に雑巾を返しながら、俺は聞く。


「あのでかい家は誰が掃除してんの?」

「実家のことですか? 家の中は主にメイドや執事がやってくれていました。庭に関しては庭師が。
でも、自分が使っている家ですから、私もできる限りお手伝いしていました。もともと、掃除は好きですし」


……だからか。雑巾の絞り方だけじゃなく、織絵の掃除したとこがもとより綺麗になっているのは。

バターのこびりついたボールとか洗わせても完璧に落とすし、簡単なことだったら褒めてやらなきゃいけないくらい、隙のない丁寧な作業をする。


仕事中は極力鬼で居て、彼女をビビらせたいのに……

こうなったら、作戦を変更するしかない。


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