バターリッチ・フィアンセ
「え、あ、はい!」
自分の思考にどっぷり浸かっていたら、いつの間にか心配そうな昴さんに顔を覗き込まれていた。
我に返った私に、美和さんが聞く。
「今、ちょうど梨のタルトが焼けたとこなの。もしよければすぐ荷物置いて、作り立てをテラスのテーブルで食べませんか?
もちろん、疲れてるなら先に部屋で休んでも構いませんけど」
作り立てのタルト……! 素敵!
私は目を輝かせて、美和さんに言った。
「すぐに荷物置いてきます!」
どこの部屋かもまだ知らされていないのに、靴を脱いで廊下に出されたスリッパに履き替える私。
その後ろを、昴さんが苦笑しながらついてくる。
「ああ、これ、部屋の鍵! 二階の突き当たりだから、すぐわかると思う」
「サンキュ」
二人の会話を聞いて、私はすぐに玄関から見える階段を目指す。
鍵を受け取った昴さんも私に続いて階段を上ろうとすると、背後の美和さんが彼に声をかけた。
「ねえ、昴……あんた本当に……」
すでに階段の半分まで上がっていた私は、踊り場の手すりにつかまって、ただ後ろを振り返る。
何の話だろう……?
美和さんの顔が少し深刻そうだから、あまり深く聞かない方がいい……?
「……こないだも言ったけど、俺は本気。だから達郎にも余計な口出しするなって言っといて」
「う、ん……でも、そんなことしたって昴のお母さんは――」
「――それが、余計な口出し」
その言葉を最後に、昴さんは美和さんに背を向けた。
久しぶりに聞いた彼の冷たい声……それに、聞かない方がいいかと思っていても、あまりに気になる内容の会話。
私を追い抜いて階段を上がりきる昴さんの不機嫌そうな様子に、私の胸が小さく嫌な音を立てた。