触れて、抱きしめて、あなたのモノ
枯渇
ここしばらくうちの職場は人手不足が続いて、夜勤や遅出が今までより多くなってしまっていた。所謂、夜専。日勤帯の勤務はほとんどないのが現状。


彼氏である大地さんとは同じ職場にも関わらず、勤務時間帯のすれ違いで会えない日々が続いていて、今日は久しぶりに会うことが出来た。


夕飯を大地さんの家で一緒に食べ、そのままいい雰囲気になり、ソファの上に2人でなだれ込み、互いを求めるようにくちづけを交わしていた。


「……真美ちゃん、最近忙しかった?」


彼は私の服の隙間から手を忍び込ませ、私に直接触れながら言った。触れられている部分から徐々に熱を帯び、そして頭がボーっとなってきた。


「うーん、夜勤務ばっかりだから不規則な生活だけど、忙しさは変わらないかな……なんで?」


話をしながらも彼は動きを止めることなく、服を捲くり露出した私の素肌へとキスを次々に落としていく。


「……だからか。疲れてるんだろうなと思って。だって、こことかさ……」


今度は私の腕に掌を滑らせていく。


「前よりもちょっと荒れてる」


彼から発せられた言葉に、さっきまであんなに熱かった身体が、急激に冷めていくのを感じた。動きを停止させた私に気付かないのか、彼は手を止めようとはしなかった。


私に覆いかぶさっている彼の胸に手をあてて、両手で力一杯に押し返し、彼との距離をとった。


すると彼は、私の行動にムッとした顔をした。……いや、不機嫌になるのは私の方でしょ?自分が何を言ったのか、それで私がどう思ったのかだなんて何も気付いていないんだろう。


私の上にいる大地さんから抜け出して立ち上がり彼の方を見ると、私の行動をじっと眺めているだけで、声も掛けようとしないし、動きもしないことに、イライラが募った。


「悪かったね、疲れきったカッサカサのお肌で。こんな肌晒してごめんなさい、無理して触れなくていいから」


……なんか、ムカつく。そう思ったと同時に口から出た台詞にやってしまったなと思ったけれど、もう止まらない。


「……今日は、帰る」


少し乱れた洋服をさっと整えて荷物を掴むと、彼の方は見ずに玄関に向かった。


「真美ちゃん!待てよ」


慌てて追いかけて来る彼。けれど、今はそっとしておいて欲しい。


「帰るから。またしばらくは夜勤続くから、時間が出来たら連絡する。またね」


自分でも分かるくらいに冷たい声色で言い放った。背後からバタバタという音と、名前を呼ぶ声が聞こえてくるけれど、振り向きもせずに玄関の扉を開け彼の家を後にした。

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