甘くて苦い
暫く黙っていたが、ゆっくりと身体を起こした速水君が、私の目を真っ直ぐに見つめた。
速水君の瞳に、哀れみや同情が映るのが怖くて、私は目を閉じるとゆっくりと唇を重ねた。
触れだけのつもりだった唇を、速水君は優しくついばんだ。
頬に触れた手は、大きくて冷たかった。
でも、今までに触れられた誰の手より、私を安心させてくれた。
キスの合間に、速水君の唇にそっと指で触れる。
春には、たった一人の女性のものになる唇。
私のものには決してならない唇。