この道を、君と

この道を、もう一度

今年は少し春の訪れが早いらしい

まだ三月の下旬だというのに気温は4月並み

気温とともに桜のつぼみが日に日にふっくらとしてきているのが、下から見ただけでもよくわかる

その姿にふとほほ笑みを残し、砂都美は懐かしい道をゆっくりと歩いていた

カバンには、少し遅くなったホワイトデーのお返しが入っている

もちろん、そんなものは口実だ

目指すは、三年前離婚届を置いてきて以来訪れていない元・我が家

いい思い出も嫌な思い出もすべてが詰まった場所

ふ、と息をついたから初めてインターホンを押した

「はい」

数秒後聞こえてくるいとしい声

「…柊二?砂都美だけど」

開けてくれる?

と言おうとした言葉は、

「砂都美!?」

という驚いた声と

「ママ!!!」

といううれしさがはじける声にかき消される
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