妖精と精霊と人間と
 「ノース?どうかしたのか?」
 幼い子供のような声でバンクスが語りかけてくると、北斗は彼に笑顔を向け、その頭を優しく撫でた。
 「大丈夫。なんでもないよ。」
 そう言って、彼はもう一度笑う。
 瞬間、美香とリデロの悲鳴が響いた。見ると、美香はグリンデローに、リデロはルサールカに、それぞれ水の中に浚われるところだった。
 「美香!リデロ!」
 明はそう叫ぶと、グリンデローの顔面を思いっきり蹴り飛ばした。グリンデローは奇声を上げながら、水の中へと戻っていった。美香はぎゅっと明のマントの裾を握りしめていた。
 「美香さん!大丈夫ですか?」ブラウンがそう言うと、美香は黙ってこくこくとうなずいた。「良かった・・・ノース様!リデロさんは!?」
 ブラウンはそう言って、美香と明を置いてリデロ達のもとへ向った。ブラウンは自分の目を疑った。リデロは、既に下半身が水につかっていた。数えられるだけで、三人のルサールカが彼を引っ張っていた。デントがリデロをひっぱっていたが、まったくびくともしない。むしろ、デントがリデロを支えていないと、いつ水の中に引きずり込まれるか解かったものではない。今も徐々に徐々に、彼女の身体は水没していた。
< 105 / 218 >

この作品をシェア

pagetop