妖精と精霊と人間と

第十五・五話 シルフ

 その昔、彼女は一国の王女だった。彼女には、遠い昔、愛を誓った一人の男が居た。彼は、東の国の王子だった。時が経ち、王女が十六の誕生日を迎えると、彼女は隣国の王子の元へと嫁ぐ事になった。彼女の誕生日、東の国の王子は彼女の元へと現れた。白装束に身を包み。王女は、彼を見つけると、隣国の王子を振り切って走り出した。だが、彼女はすぐに隣国の王子に捕まり、やがて、気球に乗せられてしまった。王女は泣いた。気球の上で泣いた。しかし、東の国の王子も負けてはいなかった。気球に両手を引っ掛けると、気球に乗り込もうとした。だが、隣国の王子はそれを許さなかった。東の国の王子めがけて、機関銃を連射した。数撃ちゃ当たる。言葉通りの事が起こった。東の国の王子は、ズルッと滑り落ちた。間一髪、王女が彼の腕をつかんでいた。東の王子は、これでは王女も落ちる、そう思った。彼はにっこり微笑むと、気球をつかんでいた片手を離した。王女の体に、一気に体重がかかる。ヤバイ。これでは本当に・・・。東の王子はそう思うや否や、呟いた。『せめて貴方だけでも生きて、生き抜いて欲しい。僕の分も生きて、生き延びてください。大好きです。・・・お元気で、姫。』つながっていた片手も、スッと離す。ずるっと、東の国の王子は王女の手の中から落ちていった。王女は東の国の王子の名を叫ぶと、気球の中で泣き続けた。隣国の王子の城に着くと、彼女は一目散に森へと走り出した。何もかも忘れて、ただ、闇雲に走り出した。森の奥で、彼女は力尽きた。隣国の王子は。一日経って、一週間経って、十日経って、二十日経って、一ヶ月経って、半年経って、一年経っても、探しには来なかった。森の精、樹木の精・エントは、王女の森でさまよう魂を復活させた。四大元素の精・シルフとして。エメラルドグリーンの瞳に、黄緑と緑の髪、肩の出た黄色がかった黄緑の襟元に、袖の長い薄い黄緑色のロングドレス、背中には妖精の羽。シルフとなった王女は微笑むと、風に溶け込んでいった。その場には、三本の線が文の『、』の無いような形で結ばれたリーフが落ちていた・・・。

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