妖精と精霊と人間と
 「ノース!」
 「北斗ぉ!」
 皆の声が入り混じり、北斗が一瞬たじろいだ。瞬間、そこにバンクスが割って入った。バンパイアの牙は、バンクスの首根っこにしっかりと噛み付いていた。
 「終わりだ・・・」バンクスは静かに目を瞑ると、呪文を唱えた。「この大気に流れる空なる気よ、我の両の手に触れ、魔の力より生まれし炎となれ。ファイアー!」
 バンクスがそう呟くと、バンパイアは灰となった。そして、彼自身の身体にもその炎が触れていた。
 「バンクス!」
 美香は駆け寄ると、ウンディーネで水の魔法をかけようとした。だが、それをバンクスは止めた。
 「美香・・・俺を、バンパイアになる前に、殺して。」
 「出来ないよ!」
 美香はそう叫ぶと、水の呪文をかけた。消えない。何度やってもその炎は消えなかった。美香よりも、バンクスの『思い』の方が強かったのだ。
 「ノース・・・これ、お前が持て。頼んだぞ・・・・?」
 バンクスはそう言って微笑むと、砂と灰の混じった姿に変わった。美香は声をあげて泣いた。その美香を、明は支えながら泣いた。皆も、大粒の涙をこぼしていた。美香と明は、バンクスに会うのは初めてだった。だが、他の皆は親友と言っても過言ではない関係だったのだ。特に、ノースとリデロはそうだったのだ。幼少の頃から、北の王城で一緒に遊んでいたのだから。
 美香は砂となったバンクスを、師匠の墓上にまいた。いつまでも一緒にいられるように。
 「そろそろ、行く・・・また、あいつ等、来る。可能性、無い、訳じゃ、ない。」
 デントがそう言うと、皆はうなずいた。そして、馬に乗ると次ぎの目的地に向った。
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