君と歩く未知
 アタシは自分がほんのり熱くなってゆくのを感じた。
カズくんの手が…アタシの体に触れる…
「弥生の心の傷、少しでも直してあげたい…」
カズくんはアタシの目を見ながらゆっくり言ってくれた。
アタシは小さく頷いて、心を落ち着かせた。
…でも、アタシの体はカズくんが触れるたび、事件を思い出して強張る。
アタシはそんな自分に嫌気が差してしまう。
カズくんはしきりに、
「大丈夫?」
と、アタシを気遣ってくれる。
そのたびにアタシは頷き、謝る。
そんな繰り返しをしているとカズくんは優しく言ってくれた。
「なんで謝るのさ。弥生は悪くないんだよ、気にしなくって良い…」
そう言ってカズくんはアタシにキスを落とした。
…ありがとう。
アタシとカズくんは一つになり、幸せを感じ合った。
もう二度とカズくんの傍を離れたくないよ…
まるで窓から滑り込んだ秋風が、二人の間のわだかまりを連れ去ってくれたみたいだね。

 だけど、あの時のせいでアタシとカズくんは離れてしまったんだ…
カズくんと一つになれて嬉しかったけど、そのせいでこの恋の寿命を縮めてしまったね。
あの日、初めてカズくんがアタシにくれた言葉。
「愛してる」
アタシは何で言い返さなかったんだろう?
せめて一回だけでも「愛してる」って言ってあげたかったよ。
今さらそんなことを思い返して何になるんだろう?
どうしようもないのはわかってる。
もう結ばれないのなんてわかりきってる。
でもアタシは毎日のようにつぶやき続けている。
ねぇ、カズくん。
「愛してる」
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