君と歩く未知
~一人っ子~

三月になったばかりのとても寒い日にアタシは生まれた。
三月のことを陰暦で「弥生」っていうんだってさ。
だから名前は「弥生」なの。
なんて単純なんだろう。…だけど、ある事件を境にアタシは弥生という名前がふさわしい人間になったんだ。
…それは、アタシが生まれた三月の日のように、寒く、冷たい人間。

アタシは幼い頃から、共働きで忙しい両親になかなか構ってもらえなかった。
だけど寂しいなんて一度も思ったことはなかった。
お父さんもお母さんも優しかったから。
だって、たまに休みが取れるとアタシを連れて外に遊びに行ってくれたし、お小遣いだって周りの友達よりずっとずっと多かった。
一人っ子だから、他に兄弟がいないから両親に人一倍「愛されてる」って思ってたんだ。
…だけど違った。アタシは人一倍「甘やかされてた」みたい。

そんな風に育てられたアタシはやっぱり、脳天気で、頭が悪かった。
…そう、だからアタシはお父さんとお母さんの間にいつの間にか入っていた亀裂に気が付けなかったの。
…もっと早くに気が付いていたら、今とは違う未来があったの?
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