君と歩く未知
 「やっと笑った」
アタシはカズくんの顔を見た。
「今、弥生やっと笑ったね」
アタシははっとした。
「アタシ今笑っていたんだ…」
カズくんは不思議そうにアタシの顔を見ている。
「…オレさ、気になってたんだけど、なんで弥生は『笑っちゃだめ、泣いちゃだめ』って言うの?」
アタシは言葉に詰まった。カズくんは慌てて取り繕った。
「いや…言いたくないなら無理しなくていいけどさ」
アタシは一つため息をついてから言った。
「…アタシにはお父さんがいないんだけどさ…」
アタシはそれだけ言った。
「そっか、それと何か関係があるんだ」
アタシはゆっくり頷いた。今はまだ全てを話す勇気がない。
「アタシの家ちょっと色々あったの。今はまだ全部話す気にはなれないけど…」
カズくんはアタシの話を真剣に聞いていた。それから、ひとつひとつ言葉を選ぶようにこう言った。
「辛かったな。だけどさ、弥生。オレの前では、オレの前だけででも、素直な自分でいることができたら、弥生の心はずいぶん楽になると思うんだ。だからさ、オレの前では、弥生の中にある規制を緩くしろよ、な?」
アタシは、少しだけ考えた。どこか本当の自分をさらけ出す場所があればどんなに楽だろうと思って生きていた。…だけど、そんなこと許されるはずはないと自分を責めつづけた。もう限界なのはわかっていた。だから、カズくんの前だけでは本当のアタシになった方がいいのかも知れない。
「うん。そうしてみるよ、カズくん」
そう言ってアタシはぎこちなく笑った。カズくんはアタシの頭をくしゃくしゃっとかき混ぜて
「それでよし」
と言って、にっこり笑った。

 これが、アタシとカズくんの出会いだったね。カズくんはどうしてもアタシみたいな困った人間が放っておけなかったんでしょう?アタシはカズくんの優しさに救われたの。カズくんがいてくれて本当に良かったって思ってる。カズくんがいなかったら、アタシはきっとこんな素敵な生き方を見つけられなかったと思うの。そして…カズくんがいなかったらこんなに素敵な恋をすることもできなかったでしょう。
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