好きと言えなくて
「家に電話してたん?」

「う、うん……」

咄嗟に嘘をつく。

「酔い覚ましに、ちょっと付き合って? このベンチでもいい。せっかく会えたから、話がしたい」

ベンチで話をするくらい、いいやんな?

「少しくらいなら……」


「ホンマに? よかった!」

太くんは立ち上がると、自動販売機に向かった。デート中、ベンチに座ると必ず、彼がしてくれたことだ。

高校生のときから、太くんは気配りのできる人やった。私がなにも言わんでも、私のことをよくわかってくれていて……。

「はい」

目の前に、ペットボトルの水を差し出された。水……と言っても、ほんのりフルーツフレーバー入りのヤツだ。

「今でも、好き?」

「えっ?」

『好き』のひと言に動揺する。

「葉子ちゃん、味の付いた水、好きやったやん?」

あ、そういうことですか……。

「うん。いただきます……」

少し頬を赤くして、ペットボトルの水を飲んだ。ほんのりと、桃の味がした。


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