好きと言えなくて
「今日なら、葉子ちゃんを奪えそうやな……」

私は、黙って頷いた。太くんが、強く手を握った。

「店は、十九時閉店やから……。店を閉めて、車で迎えに行くから待ってて?」

「わかった……」

「もう、泣くなよ?」

私が笑顔を見せると、太くんは優しく頭を撫でてから、その場を離れた。

スマホしか持っていない私は……とりあえず家に帰ることにした。家まで歩いて数分だ。

鍵がないから、インターホンを鳴らした。いつもより帰りの早い私に、お母さんは心配していた。

「今日、鍵を忘れて出かけたから、取りに帰っただけ。これから、職場の飲み会やから、帰りが遅くなる……かも……」

適当な嘘をつくと、小さなバックに鍵と少しの現金を入れて、また公園に向かった。
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