好きと言えなくて
抱きしめて
『オレが葉子ちゃんを奪う』

太くん、正義にそんなこと、言うたんや?

『幸せにする自信がない』

正義がそんなこと言い出したのは……太くんに宣戦布告されたから?

「葉子ちゃん!」

急に太くんから呼びかけられ、ハッとして視線を送る。

「葉子ちゃん? 聞いてた?」

「え? あ、ごめん……聞いてなかった……」

「お腹空いた? ご飯食べに行く? って聞いてたんやけれど……」

「あ、ああ。ご飯……ね?」

ちょうど信号が赤になった。隙だらけの私の頬に、太くんが口づけて、呟いた。

「葉子ちゃんを……先にいただいても、いいかな?」

「えっ……」

「オレは今日、そのつもりで来た」

「……は……」

「葉子ちゃんを……奪いに来た。身も心も全部……」

信号が青に変わり、太くんは真っ直ぐに前を見たまま、言った。

喉がカラカラになって、唾を飲み込んだ。もう、どうなったって、かまへん。私から正義に……謝ることなんて、できへんねんから。

「……いいよ」

車は、高速道路の近くまで来ていた。

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