マルカポーネの心配事
「モテない男の嫌味か?お前自分に自信ないんだろう」
口元を上げると
相手の顔はもっと引きつる。

うん。けっこうな牙持ってんな。
イザとなったら
足の間から抜けるか。

「俺の舌と肉球でイカないメスはいないんだよ」
高笑いをすると、ボクサー犬は我慢できなくなって俺に襲いかかる。

風が流れて
緊迫した静寂が破られる。

黒い大きな物体がジャンプし
重力の法則にのっとり俺の身体を潰す前に、俺は後ろ脚を蹴り宙を舞う。

太陽がまぶしい。

トリミングしたてのヤツの毛並みが俺の前足とかすり、不安定なその身体の上にのる。
ザワザワと足元に広がる毛並み。
ボクサー犬はすぐ立ち上がり、屈辱に燃えて俺に牙を向け首元を狙う。
俺はふうわりと黒い毛並みから一回転し、四足で踏ん張り相手を見上げる。

おいマルカポーネ
逃げ切る自信はあんのかよ
自分に問いかけニヒルに笑うと

「こら!しまじろう。いたずらが過ぎるぞ!」
「うちの可愛いマルちゃんに何をするのよ!」

飼い主ふたりがスゲー顔で走ってくる。

どうすっかなー
甘えて泣いて由紀にすがるかなーって思っていたら、豹柄の服が目の前に現れた。

ダチのチワワだ。

「ちょ、逃げるべ」
豹柄の服が似合うチワワは俺に笑って言い

俺達は女たちやらしまじろうやら
飼い主から逃げ

また走り出す。
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