ユーダリル
息子の冷たい言葉に、クレアは嬉しそうな反応を返す。普通ならへこんでしまうところだが、それを逆に考えるのがアルンとウィルの母親であった。一方トラビスは、特に反応を見せない。
いつもなら、軽い口調とノリを見せていただろう。今は、アルンの秘書に興味を抱いていた。その為、こっそりとセシリアのもとへと向かう。そして、何やら小声で会話をはじめた。
「我儘で済まないな」
「いえ、そのようなことは……」
言葉では否定の意見を述べるが、内心は異なっていた。トラビスが言うように、アルンは我儘だ。それも過度の我儘で、少しでも気に入らないと思えば臍を曲げてしまう。20歳を過ぎていながら、精神は子供。これで会社を経営しているのだから、本当に困ったものであった。
セシリアは、そのような男性を好きになってしまった。何故、好きになってしまったのか――遠い過去の記憶を探っていくが、明確な理由を思い出すことはできず、寧ろ混乱してしまう。
「息子を見捨てないでほしい」
「わかっております」
父親のトラビスこのようなことを言うのだから、余程手を焼いているのだろう。普段どのような態度を取ろうとも、息子は可愛いもの。しかしトラビスは、アルンを困った様子で話す。
これは、見ればわかることであった。あれを見ないで何も思わない人物がいたら、それはそれで立派なことである。だが全員が全員、同じことを言う。「我儘な人物」だと。よってアルンは、我儘で横暴な事業人。
「何か、プレゼントをしよう」
「い、いえ……」
「いや、是非贈りたい。あの息子の秘書を勤めているのだから、そのお礼と思ってもらえればいい」
「……は、はい」
流石にそのように言われると、セシリアは何も言えなくなってしまう。セシリアは、結婚を望んでいた。
たとえ相手があのような性格の持ち主であろうとも、好きになってしまったのだから仕方がない。
それに望まれているというのは、幸せものだろう。何せトラビスに、ベタ惚れされているのだから。無論、クレアも同じ反応を示していた。そして、どんどん先のことを決めていく。
よってアルンとクレアの会話は、別の意味合いで白熱していた。