ユーダリル

 大きい口を開け、ダラダラと涎を垂らしている。ディオンも菓子を食べたいのか、ブルブルと尻尾を振る。

「やっていいか?」

「いいよ。食いたそうだし」

「じゃあ、数個」

 自分とゲーリー。それに、洞窟の中の狼親子。それらに菓子を配らないといけないので、ディオンに大量に菓子を与えるわけにはいかない。しかしそれに気付いていないディオンは、多く欲しいとせがむ。

 だが、それが受け入れられることはない。ウィルは、開かれた口の中に数枚の菓子を投げ入れると「終わり」と言う。それを聞いたディオンは哀しそうな表情を浮かべると、シクシクと泣き出す。

「お、おい」

「いいんだよ」

「厳しいな」

「ディオンの胃袋は、底無しだよ。大量に食べ物を与えると、癖になってしまうからこれでいい」

「覚えておくよ」

 ゲーリーも受け入れてくれたことに、ウィルはうんうんと頷く。彼はディオンの体調を心配し、食事制限をしている。それを周囲が守らず大量に食事を与えたら、ブクブクと太ってしまう。

 しかし、その心配をなくなった。そのことに気分を良くしたのか、ゲーリーに沢山の菓子を渡す。

「いいのか?」

「友好の証」

「嬉しいね」

「ディオンには注意だ」

「わかっているよ」

 ディオンに取られてはいけないと、隠すようにして食べる。だが、甘い匂いが漂う。その為、ディオンが動く。口を開けゲーリーごと食べようとしたが、寸前でウィルに止められた。

「ディオン!」

「油断できないな」

 鋭い牙を見た瞬間、反射的に身構える。この歯で噛まれたら、堪ったものではない。牙は柔らかい肉に突き刺さり、血が噴出する。最悪の場合、出血死は免れない。それだけディオンの牙は、危険であった。現在飼い主のウィルが側にいるので安全だが、もしもの場合もある。
< 224 / 359 >

この作品をシェア

pagetop