ユーダリル
暫くすると、ディオンがやっと気付いてくれた。しかし状況が掴めないのか、視線を左右に向けていく。
すると、ウィルと視線が合った。
「やっと、起きたか」
ウィルの言葉に、ディオンは可愛らしい声音で鳴き甘えてくるが、今は甘えを許している暇はない。
早く自宅から遠い場所に連れて行き、アルンのプロポーズを成功させないといけないのだ。
まだ半分眠っているディオンの尻をペシペシと叩くと、完全に目覚めるように促す。だが、これくらいで簡単に目覚めるものではない。ディオンは何度も欠伸を繰り返し、一瞬意識が飛んだ。
「こら!」
流石に、今の怒鳴り声は効いたらしい。ディオンは何度も瞬きを繰り返すと、ちょこんっと座りウィルの顔を見詰める。どうやら機嫌が悪いと勘違いしたのだろう、何処か仰々しい。しかし、別に怒っているわけではない。その証拠に、鼻先を人差し指で擽っていった。
「いってきます」
「……御免なさい」
「セシリアさんは、悪くないよ。一番悪いのは、兄貴だし。あっ! 大切な物を忘れるところだった」
先程まで、仕事道具を手入れしていた。それを忘れ、置いていくところだった。ウィルは慌てて道具を袋の中に仕舞っていくと、手入れに使っていた道具をどうすればいいか迷う。
ディオンと道具を交互に視線を向けるウィルに、セシリアは代わりに自分が片付けると言ってくれた。
「いいの?」
「はい。お礼です」
彼女にしてみれば、プロポーズの邪魔をするディオンを遠ざけてくれるだけで、有難かった。それに対してのお礼は、これくらいしかできないというが、ウィルにしてみれば嬉しい礼だった。
今度は、ウィルが礼を言う。そして袋を持ちディオンの背に跨ると、一言「いい知らせを待っている」と、言った。
突然の言葉に、セシリアの顔が微かに赤く染まる。何とも可愛らしい反応にウィルはクスっと笑うと、ディオンに飛び立つように命令を出した。しかし、本当に奇跡としかいいようがない。あのアルンが、プロポーズをするのだから。彼の性格を考えると、自分から進んで言う人物ではない。