ユーダリル
彼にとって、セシリアは特別なのだろう。二人が結婚したら、仕事と家庭の両方の面でいい関係を築くに違いない。
永遠の平和が、訪れる。
その為、早くディオンを遠ざけたい。
しかしウィルの気持ちを理解していないのか、ディオンはセシリアのもとへ戻ろうとした。
「お、おい」
予想外の動きに、ウィルは落ちそうになってしまうが、何とか堪える。そして、大声で「戻るな」と言うが、ディオンは聞き入れてはくれない。それどころか、更に速度を速めていく。
こうなると、ディオンが主導権を握る。
今、ウィルはディオンの背中に乗っているので、言葉で注意しても行動に出してどうこうすることはできなかった。それにより、ディオンの暴走を止めることができず、屋敷に戻るのであった。
「……お前」
いつものディオンであったら、ウィルの言うことを素直に聞く。だが、今日は何処か違った。
余程セシリアのことを心配しているのか、左右に視線を向け捜していく。すると彼女の気配を感じ取ったのか、ドスドスと其方の方向に歩いて行った。ウィルは、慌ててその後を追っていく。セシリアとの約束があるので、何が何でもディオンを止めないといけないからだ。
しかし、体力的に相手の方が上。下手に喧嘩に発展したら、怪我をするのは此方側である。
だが――
約束を優先する。
その時、窓硝子の向こう側に、セシリアの姿があった。彼女の姿が視界に入った瞬間ウィルは慌ててディオンに飛び掛り、地面に抑え付け静かにするように言う。しかし、ディオンは暴れ言うことを聞かない。
「頼む」
今回は、事情が事情。
プロポーズを成功させたいので、必死に抑え付ける。するとディオンもウィルの真剣さが伝わったのか、急に大人しくなる。
やっと言うことを聞いてくれたことに、ホッと胸を撫で下ろす。そしてディオンを連れ再び遠くへ行こうとした時、アルンの真剣な声音が聞こえてきた。どうやらプロポーズがはじまったのだろう、ウィルは明後日の方向に視線を向けると、反射的に声音が聞こえてくる方向を見詰めた。