ユーダリル

 多分、二人でいる時に呼んでいるのだろう。

 あのように見えて、セシリアは照れ屋である。

 先程以上に意味深い笑い方に、とうとうアルンが切れてしまう。

 彼は「何でもいい」と怒鳴ると、横を向いてしまった。

「怒った」

「お前が悪いんだ」

「だって、気になるから」

「帰れ」

「兄貴が勝手に呼んだんじゃないか」

 今日は、立場的にウィルの方が上。それに結婚してから、何処かアルンは弱くなってきている。

 これも妻となったセシリアの教育の賜物なのだろう、アルンの変化にウィルは喜んだ。

 昔の彼であったら、アルンに対しての攻撃を緩めない。

 しかし実兄から漂う怪しい雰囲気を察したのか、彼は紅茶を飲み干すと「帰る」と言い、ソファーから腰を上げる。

 そして、手を振った。

「……そうか」

「兄貴が言ったから」

「たまには、戻って来い」

「わかっている」

 勿論そのように言われなくても、定期的に実家に帰ってこようとウィルは思っていた。

 結婚前は実家に近寄ろうともしなかったが、セシリアという最強の義姉ができたので自ら望んで帰宅するようになった。

 帰宅の回数が増えたことに、アルンは喜んでいる。

 しかしその裏側にセシリアが関係しているということを、アルンは気付いていない。

 また、二人が影で話し合っていることも知らなかった。

「行く」

「わかった」

「あっ! でも、メイドの所へ行く。実家に戻って来た時は、顔を出して欲しいと言われているから」

「人気だな」

「兄貴がメイド達に優しく接すれば、兄貴も人気が出ると思うよ。だって、兄貴って厳しいし……」

 その指摘にアルンは、両腕を胸の前で組み唸り声を出す。

 「どうでもいい」と以前は思っていたらしいが、ウィルの方に集まるメイド達の姿を見ていると、正直言って寂しくなってくる。

 改善したいのでウィルにアドバイスを貰うが、彼の答えは意外に簡単なものであった。

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