ユーダリル
プディングの悲劇

 今日は、朝から雪がちらついていた。天からの白い贈り物は、ユーダリルではとても珍しいことだ。空中に浮いている島の為、温度が寒いと思われるが意外に暖かい。雪が降るのは、冬の時期に僅か数週間。しかしこの雪は、島全体を白く染め幻想的な雰囲気を作り出す。

 寒い時期が苦手な人間にとっては堪える季節でもあったが、大半の者達はこの美しい光景を楽しむ。そして雪の中で元気に遊び回るのが定番だが、屋敷の敷地内でそれを行うことはできない。メイドはメイドとしての仕事を行い、早く仕事を終わらせないといけなかった。

 窓を拭いていた手を止めると、無意識に天を仰いだ。そして今年はじめての雪に、微笑んでしまう。ユフィールにとって雪というものは、観賞して楽しむもの。幼い頃、降り積もった雪の中で遊んだ経験を持つ。今思い出せば恥ずかしいことだが、子供なら誰でも行っていた。

 だが、今はそのようなことはできない。年齢も関係していたが、メイドとしての仕事があった。それに仲間が仕事をしている中で、遊ぶことはできない。思っている以上に広い屋敷。ひとつの仕事が終わったら、次の仕事が待っている。無論、この窓拭きの後も仕事があった。

 遊べないというのなら、一面の銀世界を楽しみたい。ユフィールは雪が積もることを願うが、中には積もらないでほしいと願う人物もいる。それは、肉体労働を行わなければいけない者達だ。雪が積もる――そうなれば雪かきをしなければいけないが、誰も好き好んで肉体労働は行いたくはない。

「ユフィール、終わった?」

「も、もう少しです」

「そうね、仕方ないわ。この窓、大きいから」

 メイド仲間に声を掛けられ、慌てて仕事を再開する。すると声を掛けてきたメイドがユフィールの側まで来ると、徐に窓から天を覗き見る。その瞬間、目を大きく見開き微笑みを浮かべた。

「あら、降ってきたようね」

「積もるでしょうか?」

「どうかしら? でも、積もったら綺麗よね」

「はい!」

「でも、仕事は大変になるわ」

 同士と思える相手の登場に、ユフィールは喜んでしまう。しかし仲間が言うように、仕事はいつもの倍以上の苦労を有する。何故なら、雪が降れば水仕事が堪える。今までは我慢して行えたが、更に気温が下がれば水に氷が張る。そして水は、手を切り裂くように冷たい。
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