ポーカーフェイス

「翔…汰…?」


 夢子も、こんな翔汰は見た事が無かった。

 しゃくり上げながら、夢子は言う。


「なんっ、で…あ、んなっ、言葉っ、づか、い…?」

「ふふ。元ヤンだって思った?」


 時折、その微笑みが黒く、怖いと感じる事があった。

 
 もしかして…。…いや、まさかな。


 夢子が現役ヤンキーだった頃、巷で有名な族があった。

 借りはきっちり10倍返し。

 それが掟だったのか、ケンカを吹っかけた下級グループは、翌日存在そのものが消されていた。

 そこの族長が、爽やか系男子だという事で、更に有名度は上がったのだが。


「元ヤンじゃないよ。どれだけ夢子と一緒にいると思ってんのさ。…ただ、兄貴は有名なそれだったけどね」

「っぅ…そ…」

「こんな事でウソ吐いたってしょうがないじゃん?ホントだよ」


 まさか、こんなところに縁があったなんて。

 夢子のグループもその族にケンカを吹っかけた事があった。

 他の奴らはもう、見ていられない程の事になっていたが、夢子だけは何故か助かった。


「なん、で…」


 腰を抜かしてしまい、その場に座り込んだ夢子は、自分の前に立った男を見上げた。


「あー。君、夢子、ちゃんだよね?」

「…」

「ふふっ。……アイツが気に入るわけだ。……今日の所は見逃してあげるよ。………てめぇらあ!戻んぞお!…じゃね、夢子ちゃん」


 パチンと華麗にウィンクした、その男は、特攻服の裾を靡かせて、夢子に背を向けた。

 今、その男が言っていた意味がやっと分かった。

 長年、頭を悩ませていたその言葉の意味は、割と間近にあったのだ。

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