ポーカーフェイス

「悠翔」

「んぁ?」

 
 テレビ局を出てすぐ、再び後ろから声を掛けられるが、悠翔は振り向かなかった。


「振り向けや、このバカ」

「っせぇ」


 頭を軽く小突かれるも、やはり悠翔は振り向かない。

 声だけで分かる。


「尋翔(ひろと)」

「あー?」


 尋翔は、悠翔のマネージャーであり、双子の弟である。


「なんもねぇ」

「じゃぁ、呼ぶんじゃねぇよ。バカ」

「おめ、さっきからバカしか言ってねぇじゃねぇか。バカ」

「あ?バカだからしゃーねぇだろーが、このバカ」

「あー、うぜぇ!」


 伊達メガネで軽い変装している悠翔でも、道端で大声を出せば嫌でも注目を浴びるだろう。

 案の定、悠翔も、そして巻き込まれた尋翔も行き交う人々の視線を集める事になった。


「だー!もう!アホ!」

「アホォ?!」

「こっち来い、アホ!」

「今度はアホかよ!」


 今度はひそひそとだが、相変わらず幼稚な言い争いを止める事はせず、乙津兄弟は路地裏へと逃げ込んだ。
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