ポーカーフェイス


「それを他人に押し付けるのはお門違いだ………か」

 
 空は灰色に染まり、重そうなその雲は、今にも落ちてきそうである。

 土砂降りの雨は、容赦なく悠翔に襲い掛かる。

 ピタリ、と悠翔はその足を止めた。


「…廉」


 呟く親友の名前。

 目の前の一軒家には、『KAMINOMA』と表札が上がっている。

 チャイムを押す勇気もなく、ただボーっと家の前に立つ。

 と、


「どうされました?」


 後ろからの突然の声。


「っ」


 勢いよく振り向けば、パーマのかかったおばちゃんが、怪訝そうな顔をして悠翔を見つめていた。


「あー、もしかして、神之間さんのお知り合いとか?ですか?」

「え、あ…まぁ」


 曖昧に答えた悠翔に、おばちゃんは眉尻を下げ、困ったように笑った。


「それは…」

「あの…、」


 おばちゃんの声にかぶせ、悠翔は、1番聞きたかった事を聞いた。


「廉の…神之間の奥さんって…」


 どこにいるんですか?

 そう聞こうとしたのだが。


「あぁ。音乃(おとの)さん?」


 音乃。

 覚えた。廉の奥さんの名前は、音乃だ。
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