ラブソングは舞台の上で

「それじゃ、この話の続きは千秋楽の後ってことで」

とりあえず今は、両想いだったという事実を胸に刻もう。

これを自信にすれば、恵里佳ちゃんに立ち向かえる気がする。

それだけでも彼の気持ちを聞いた価値はあった。

虚しいだけで終わらずに済んでよかった。

話が一段落して、お互いがコーヒーをすする。

晴海が突然思い出したように尋ねてきた。

「あ、そういえば。この間のあの男、誰?」

こんなことになってしまった原因は、やっぱり彼だったのだろう。

「会社の先輩」

嘘ではない。

翔平は1つ先輩だ。

「それだけ?」

「……元カレ」

白状すると、晴海の顔色が変わる。

「あいつ絶対まだ明日香のこと好きだろ」

「うん。あの日に復縁を求められた」

あの時の私たちの雰囲気を察していたようだ。

だから邪魔をするように話に割り込んだり、威圧するように迫ってきたりしたのか。

ヒヤヒヤしたけど、今思うと愛おしい。

「それで、どうすんの? そいつと」

そう問う晴海は、不安そうな顔をしていた。

「今はミュージカルに専念する。けど、千秋楽以降はどうだろうね」

少し意地悪な答え方だったかもしれないと思ったが、これくらい許してほしい。

だって、私たちは両想いだけど、愛を誓い合ったわけではないのだから。

晴海は不満気な表情でコーヒーを飲んだ。




< 152 / 315 >

この作品をシェア

pagetop